はじめに:自作PCの常識が崩れた2026年
2026年8月時点で、PCパーツ価格の高騰・高止まりが続いています。XなどSNSでも話題になることが多いですね。メモリ・ストレージ・グラフィックボードの主要パーツを同時に襲ったこの価格ショックの構造と経緯、そして今後の見通しを整理していきます。
| 項目 | 価格(2026/08頃) | 価格(2025/10頃) | 最高値 |
|---|---|---|---|
| DDR5-6400 32GB | 68,000円 | 18,000円 | 100,000円 |
| SSD 1TB | 32,000円 | 11,000円 | 34,000円 |
| GeForce RTX 5090 | 850,000円 | 350,000円 | 850,000円 |
「メモリは安くなったら買う」。自作PCで長く通用してきたこの常識が、2026年に入って完全に崩れました。DDR5-5600 16GB×2枚組の国内価格は一時10万円近くまで上がり、およそ1年前の4倍前後という異常な水準に達しました。SSDも例外ではなく、大幅に値上げされています。
エントリークラスのゲーミングPCが丸ごと1台組める金額が、メモリとSSDだけで消える計算です。秋葉原のショップ店員さんが「こんな上がり方は見たことがない」と語ったのは2026年1月のことです。あれから半年、高騰はいったん落ち着きを見せつつありますが、価格は依然として高止まりしたままです。
何が起きているのか――3パーツ同時高騰の現状
はじめはメモリだけでしたが、それがSSD/HDD、グラフィックボードへと波及していきました。現状を詳しく見ていきましょう。
メモリ:1年で8.8倍になったDRAM大口価格
最も激しく高騰したのはメモリです。日本経済新聞の報道によれば、DRAMの大口取引価格は2026年2月時点で1か月に2倍のペースで急騰し、3月には前年比8.8倍に達しました。DDR5メモリだけではなく、旧世代のDDR4メモリも高騰しています。
店頭への波及は2025年11月後半から始まりました。AKIBA PC Hotline!の定点観測では、11月後半に前回比100%超、つまり半月で2倍を超える値上がりが複数のモデルで確認されています。年明け1月も高騰は続きました。例年なら初売り特価が並ぶはずの年明けに、特売が一切ないという異例の幕開けとなりました。BTOパソコンでも大々的な新春セールは行われませんでした。20年以上この業界にいる私でも初めての経験です。
用語解説:「大口価格」と「スポット価格」
ここで言う大口価格(契約価格)とは、メモリメーカーとPCメーカー/メモリモジュールメーカーといった大口需要家が、大量購入を前提に直接交渉して取り決める取引価格のことです。月次や四半期ごとの交渉で決まり、DRAM市場全体の「基準価格」として機能します。一方のスポット価格は、現物市場でその都度売買される価格で、需給の変化が即座に反映されるぶん値動きが荒いです。
典型的なパターンでは、まずスポット価格が先行して動き、数カ月遅れで大口価格が追いかけ、最終的にわれわれが目にする店頭価格に波及します。つまり「大口価格が1年で8.8倍」という報道は、一部の転売や投機で瞬間的に跳ねた数字ではなく、メーカー同士の正式な取引レベルで価格が切り上がったことを意味します。大口価格が上がっている限り、店頭価格だけが先に下がることは考えにくいです。店頭の値札の裏で何が起きているかを読むうえで、この2つの価格の関係は覚えておいて損はありません。
ストレージ:SSD急騰とHDD購入制限、店頭から消える大容量モデル
ストレージの高騰はメモリより一歩遅れて本格化しました。2026年1月前半には複数のSSDが前回比150%超の急騰を記録し、品薄・品切れが続出しました。見逃せないのがHDDへの飛び火です。
SSDの代替としてHDDに需要が集中した結果、大容量モデルを中心に品薄が進行し、2026年4月には秋葉原の一部ショップが購入制限を設けるまでになりました。データセンター市場ではSSDの容量単価がHDDの16倍に開き、割安なHDDに買いが殺到する構図が店頭にもそのまま持ち込まれた形だと考えるのが自然です。8TBモデルが20,000円(2025年7月)から55,000円(2026年7月)まで上がっています。
グラボ:品薄とVRAMコスト倍増でNVIDIA・AMDが値上げへ
グラフィックボードの品薄自体は、これが初めてではありません。ただ2021年のマイニングブームのときは、価格が上がってはいても、待てばパーツショップの店頭で買うことはできました。今回は事情が違います。買い手側の資金力の問題ではなく、コンシューマ向けに回る生産枠そのものが削られているためです。値段さえ出せば手に入った前回の品薄とは、性質が異なると考えたほうがよいでしょう。
グラフィックボードの高騰は、GPUチップそのものではなく搭載メモリ(VRAM)のコスト上昇が主因という点で前2者と地続きです。国内の店頭では2026年の年明け早々からRTX 5060 Ti以上のクラスが急速に枯渇しました。
NVIDIAとAMDが2026年初頭からGPUの価格を大幅に引き上げるというリークもありました。なんと、GeForce RTX 5090は2,000ドル→5,000ドルと2.5倍に設定されるようです。実際、発売当初は40万円前後で購入できましたが、現在は70万円を超えるようになっています。定価が上がった主因は、VRAMの調達コスト高騰と供給不足です。
原因はひとつ――AIデータセンターへの「生産シフト」
メモリ価格高騰の要因は、世界的なAI需要によってメモリの供給が追いつかなくなっているためです。AIを動かすには膨大な計算やデータ処理が必要で、そのデータ処理にはGPU・メモリ・SSD/HDDなどのハードウェアが必須です。データセンター建設ラッシュが続いています。
AI及びデータセンター=グラフィックボードと思われがちですが、メモリ需要もかなり大きいです。通常のパソコンと同じように、データの読み込みなどでメモリが重要な役割を果たします。メモリ容量が不足すると、CPUやGPUとのデータのやり取りがボトルネックとなり、処理に支障をきたすためです。
メモリメーカー各社は、利幅の大きいAI向けHBM(広帯域メモリ)とサーバー向けDDR5に生産能力を集中させ、PC向け汎用DRAMの生産を大幅に絞りました。NANDも同様に、ハイパースケーラー向けエンタープライズSSDが優先され、コンシューマ向けの供給が細っています。
この偏りは、NVIDIAの決算数値にそのまま表れています。2026年度第4四半期の売上高681億ドルのうち、データセンター部門が623億ドルと全体のおよそ91%を占めました。ゲーミング部門は37億ドルで、構成比は5%台にとどまります。通年で見ても、データセンター1,937億ドルに対してゲーミングは160億ドルです。同じTSMCの生産枠を使って製造される以上、どちらに優先的に割り当てられるかは、この数字を見れば明らかでしょう。利益率の高いAI向け製品を優先するのは、企業として当然の判断でもあります。
つまり一般消費者は今、GoogleやMicrosoft、OpenAIといった巨大プレイヤーと同じウエハーを取り合っています。DRAMが値上がりすればDDR5モジュールが上がり、GDDR7が上がればグラボが上がり、NANDが逼迫すればSSDが上がり、SSDから逃げた需要がHDDまで枯らす。すべてが一本の線でつながっており、どれか一つだけ安くなるということが起きにくいのが、今回の高騰の厄介なところです。
影響はパーツ単体にとどまりません。パーツ価格が高騰を始めてから遅れること2か月、2025年12月以降はBTOパソコンの価格も高くなっています。2025年12月より前の時期と比べると、5万円から10万円の幅で値上げされています。エントリークラスでも10万円→15万円前後、ミドルクラスで15万円→20万円前後です。
ハイエンドモデルや、メモリ/SSDといった構成が充実したモデルは、それ以上の値上げが適用となっています。受注が殺到したことで販売を停止していたBTOメーカーもあったぐらいです。当然中古パソコンの価格も上がっていて、当ショップの在庫も一部価格改定を行いました。それでも新品のパソコンと比べれば割安であることに変わりはありません。
高騰の時系列――警告から沈静化の兆しまで
2025年秋:業界からの警告と先行値上げ
兆候は2025年10月頃から現れていました。TrendForceは、AI需要とHDD不足がNAND価格を押し上げるとするレポートを発表し、11月に入ると国内でもメモリの価格が上昇してきました。ユーザーの間でも、徐々に値上がりが認知され始めた段階です。ここから事態は長期化していきます。
マウスコンピューターが「現在パソコン購入をご検討中の方へ悪いことは言いません、なるべくお早目の購入をオススメします!!本当に!!買うなら今です……!!」と投稿した頃から、一気に事態が加速したように思います。ゲーマーがメモリやSSD価格の上昇を恐れゲーミングPCの需要が爆発しました。ゲーミングPCの在庫切れが発生し、納期も長期化。購入したくても購入できない状況が続きました。
2026年1月:パニック買いと品切れ、急騰のピーク
年が明けると、高騰は最初のピークを迎えます。メモリは特売なしの異例の年明けとなり、SSDは150%超の急騰、グラボ売り場ではRTX 5060 Ti以上が枯渇。1月末には「これ以上待っても安くならない」と判断したユーザーによるパニック買いまで発生しました。ゲーミングPCの価格も爆上がりしました。
2026年春〜夏:高止まりと「旧世代・低容量回帰」という自衛策
3月末になるとDDR5メモリの一部に値下がりが見られるなど、市場に変化の兆しが出始めました。ただしストレージは依然厳しく、4月にはHDDの購入制限が始まっています。興味深いのはユーザー側の適応です。
手持ちのDDR4を使い回して新調をしのぐ、あえて500GBクラスの低容量SSDを選ぶ、旧世代のRTX 3060 12GBに回帰するといった自衛策が広がり、6月には需要に応える形でGIGABYTE製RTX 3060 12GBが59,800円で再入荷して話題になりました。新品の旧世代グラボが「再生産か?」と騒がれる状況は、この市場の歪みを象徴しています。
枯渇が目立つのはRTX 5060 Ti以上のクラスで、エントリーからミドル下位の帯は比較的手に入りやすい状態が続いています。フルHD・中設定を前提に割り切るなら、選択肢が完全に消えたわけではありません。「上位モデルが買えない」と「ゲームができない」は別の話で、この二つを混同すると必要以上に高い買い物になりがちです。
BTOパソコンでも、メモリのシングルチャネル化やSSD 500GB構成が一般化しました。そして7月に入り、上昇ペースはようやく鈍化してきました。ゲーミングPC需要が小さくなったからか各BTOメーカーがセール・キャンペーンに力を入れるようになっています。もっともAI需要は依然強く、DRAM・NANDの価格は上昇を続けています。沈静化はあくまで「上昇ペースの鈍化」であって、値下がりではありません。
今後の見通しについて
いつになったらメモリ価格が落ち着くのかは気になるところでしょう。当ショップとしては、2027年以降もパーツ価格は落ち着かないのではないかと予想しています。特にDDR5メモリに関しては、2026年中は高止まりとなるでしょう。NVIDIA・OpenAI・Microsoft・Google・Metaなどの超大手企業が、メモリ確保のために数年単位での長期供給契約を結び在庫を確保する動きを強めています。こうなると市場に流通する量は急減し、価格が跳ね上がります。これが2026年7月時点での状況です。
現在、将来の需要に応えるためにメーカー側は増産体制に入っています。Samsung、SK hynix、Micron(消費者向けメモリ事業から撤退)など半導体メモリの大手企業が、数兆円規模の巨額投資を実行しています。ただ、当面の間はAIサーバー向けの超高速メモリである「HBM」の製造がメインとなります。HBMは通常のメモリと比べて歩留まりが悪く、一般市場向けのDDR5メモリへリソースが割り当てられるまでには、もう少し時間がかかるでしょう。逆に言えば、AI需要が落ち着けばメーカーの生産能力は過剰になるはずです。そうなれば供給が需要を上回り、価格が下がっていくことにつながります。
供給側の構造が変わらない限り、劇的な値下がりは期待できません。メモリメーカーがHBM優先の投資配分を見直すか、AIデータセンター投資が減速するか。そのどちらかが起きるまで、汎用DRAM・NANDの供給は細いままです。少なくとも2026年内に「2025年前半の価格」へ戻ることを前提にした計画は、立てないほうがよいでしょう。
NANDの供給不足もしばらく続くでしょう。AI需要の拡大もそうですが、過去の失敗からメーカー側も供給を一気に増やせないという事情がありそうです。つまり、企業が巨額の投資をしても、製品の供給量が増えて価格が崩壊すると、結果的に投資を回収できなくなってしまうということです。
よくある質問
グラフィックボードの品薄はいつまで続きますか?
2026年8月時点で、上位モデルの品薄が解消する時期は見通せていません。原因がマイニングのような一過性のブームではなく、AIデータセンター向けへの生産シフトという構造的なものだからです。メモリメーカーがHBM優先の投資配分を見直すか、AI投資そのものが減速するまでは、コンシューマ向けの供給は細いままだと考えられます。
2021年のマイニング品薄と何が違うのですか?
2021年は「買い手が増えすぎた」需要側の問題でしたが、今回は「作る量を減らされた」供給側の問題です。前回は価格が上がっても店頭で買えましたが、今回は上位モデルの在庫そのものが確保しづらくなっています。また前回はグラフィックボード単独の問題だったのに対し、今回はメモリ・SSD・HDDまで同時に上がっている点も異なります。
今グラフィックボードを買うべきですか?
用途が決まっているなら、必要になった時点が買い時です。値下がりを待つ効果は現状ほとんど期待できません。逆に、明確な用途がないままの「とりあえず買い」はおすすめしません。予算を抑えたいなら、RTX 3060 12GBのような旧世代モデルや中古も含めて選択肢を広げるのが現実的です。
おわりに:いま買うべきか、待つべきか
現実的な結論はこうです。まず、値下がり待ちの効果が最も薄いのはメモリとSSDです。少なくとも2026年第3四半期までは上昇が続くという見通しを踏まえれば、必要になった時点が買い時です。グラボは値上げが段階的に進んでいる最中で、旧世代・中古市場も含めて選択肢を広げるのが現実的です。RTX 3060 12GBの再入荷のように、メーカー側が旧世代を再供給する動きも出ています。
一方で、明確な用途がないままの「とりあえず買い」はおすすめしません。1月のパニック買いのような行動は高騰をさらに加速させるだけで、7月時点では上昇ペースの鈍化も見え始めています。手持ちのDDR4プラットフォームやHDDを延命しつつ、価格の定点観測を続けて底を見極める。地味ですが、それが2026年のPC選びの戦い方です。予算を抑えたい方には、新品と比べて値上げ幅が小さい中古パソコンも現実的な選択肢です。
当ショップでも、パーツ高騰前の構成のまま在庫している中古ゲーミングPCを取り扱っています。新品のBTOが値上げされた分、価格差は以前より開いています。納期も即納が中心で、1か月待ちが当たり前になっている新品とはこの点でも差があります。ただし中古相場自体もじわじわ上がっており、一点ものである以上、狙っているモデルがあるなら早めに動くことをおすすめします。
出典一覧
- 「こんな上がり方は見たことがない」メモリ・SSD暴騰にパニック買いも発生(AKIBA PC Hotline!, 2026)
- DRAM大口取引価格、1カ月で2倍に急騰 AI需要急増で品薄に(日本経済新聞, 2026)
- DRAM価格、1年で8.8倍-AI向け転換、供給大幅減(日本経済新聞, 2026-2)
- メモリの高騰が一層激化、前回比100%以上の極端な値上がりも複数 [11月後半のメモリ価格](AKIBA PC Hotline!, 2026-2)
- SSDの複数モデルが前回比150%超の急騰、在庫減少で品薄や品切れも多数 [1月前半のSSD価格](AKIBA PC Hotline!, 2026-3)
- SSDs now cost 16x more than HDDs due to AI supply chain crisis(Tom's Hardware, 2026)
- 2026年は供給難で幕開け RTX 5060 Ti以上が急速に枯渇しグラボ売り場だけが「ピリつく」アキバの現状(ITmedia, 2026)
- 2026 NAND Flash: AI & HDD Shortage Ignite Price Surge(TrendForce, 2025)
- NVIDIA、2026年会計年度第4四半期および通年の業績を発表(NVIDIA, 2026)



